りぷろぐ

せつな系創作団体「Repro」のBlogです!

割と個人的なことと、坂本真綾の『アイディ』を読んでby淡夏

 年の瀬になると、いつも自分の中でこの問いが浮かびます。

「今年は、一体何を積み上げられたのか」と。

 とっくの昔にモラトリアムは終わり、これまで貰ったものに報いるために、次の世代に何かを残していかなければならない。

 それが大人というもの。

 だと言うのに、自分はまだ次に託せるものなどなく、個人的な人生を完結出来るような積み重ねもない。

 がむしゃらに生きてはみたものの、どうもこの問いを前にすると、胸の内に虚しさがじわじわと広がってしまう気がします。

 

 そんなちょっと気が落ちかけている時、古本屋で一冊の本と出会いました。

 坂本真綾のファーストエッセイ集『アイディ』。

 坂本真綾と言えば、『カードキャプターさくら』の名曲『プラチナ』を歌ったり、自分の大好きな『空の境界』の主人公、両儀式を演じたりと幅広い活躍をされている方です。

 一度だけ、『コードギアス亡国のアキト』の舞台挨拶でご本人を見たことがあるのですが、住む世界が違うというか、ほんとオーラが違うという印象を抱いた覚えがあります。

「こんな凄い人なら、さぞかし凄いこと書いているんだろうなぁ」と読む前までは思っていました。

 

 実際、当の本人は大したことなさそうに書いていますが、その行動力は凄いと思います。

 自分の夢――舞台『レ・ミゼラブル』でエポニーヌ役を演じる――のためにオーディションを受けたり、ちょっと自分を見直すためにロンドンへ一週間のホームステイをしたり。

 そういうことをしたいと思っても、出来ない人の方が多い。

 だから、やっぱり夢を叶える人の絶対に必要な素質は“行動力”なんだろうなと改めて実感しました。

 

 けれど一方で、真綾さんがこんなに自分達に近いんだということを知ったことが、一番この本を読んで心に残ったことでもあります。

 前述した『レ・ミゼラブル』の舞台でも、最初はそれなりにやりたいという気持ちで受けたのに、オーディションが進むにつれ自信がなくなり、いざ受かってしまうと「怖い、やりたくない」という気持ちが強すぎて一度断ってしまったり、稽古が始まってからも、出来なさ過ぎて落ち込んで、人がいる前でも大泣きしてしまったり。

 別にそういうことを言われているわけではないのに、周囲からも責められているような錯覚に陥ったりと、思ってた以上に赤裸々とその当時の心境がつづられていました。

 

 自分は、真綾さんのように、誰かの――自分の夢を叶えるような仕事をしているわけではありません。

 一度そういう方向を目指そうとして、やっぱりがっつり仕事にすることは諦めました。

 好きなことは、好きなまま続けたいし、それをすることだけが自分の幸福になるとは思えなかったのです。

 その選択が正しかったとは思いませんが、間違っていたとも思いません。

 だから結局今の生き方の正しさなんて死ぬ時にしかわからないと思います。

 何をしても、どこに居ても同じように思い悩み、苦しむことは変わらないんだろうなと『アイディ』を読んで思い直しました。

 ただ、そこに対する思い入れや、本気の度合いが変わってくるだけで。

 

 真綾さんはその後も、7年間に渡りエポニーヌを演じられたそうです。

 その中でも苦しいことは続き、けれど楽しみ方も分かってきたとか。

 仕事に関しては成果というどうしようもない現実がついて回りますが、夢ややりたいことについては、やっぱりやり続けないと何にも得られないんだろうなと思います。

「夢は必ず叶う、なんて嘘だ」という話が一時色んなところで語られてきたと思いますが、きっとそれは違うことなんです。

 少し逸れますが、水瀬いのりの新曲『Ready Steady GO!』の中に、こんな歌詞があります。

 

“夢は叶った瞬間に始まるんじゃない。

 そこに辿りつくことを決めた日に、始まっていると私は思うの”

 

 夢は「叶う」ものでも、「叶える」ものでもない。

 「叶え続ける」ことでしか実現出来ないものなんだ。

 だから、行動を諦めたその瞬間に、終わってしまうものなんだ。

 そういうことを、真綾さんの本や、水瀬いのりの曲から感じとった気がします。

 

 冒頭でも述べた問いに、今の自分ならこう返す。

「積み上げたものはないし、それどころか今は停滞すらしている。

 けれど、少しずつでも、間に合わないかもしれないけど、止めることだけはしないつもりだ」

 たぶん、その選択だけが、色々拗らせて力をなくしかけてしまっている自分の過去を救う手立てなんだろうなと、そう思うのです。

 

 前日のブログでもふりうくんが書いていましたが、リプロは2018年も活動を続けます。

 そういう何かをする場があることに感謝しつつ、自分も先へ進んでいきたいと思います。

 自分のことばかりになってしまいましたが、今年もありがとうございました。

 来年もまた、よろしくお願いいたします。

 

 淡夏