【メモ】呪われたもの アレクシナ・Bの回想
お久しぶりです。鳴向です。
先日読んでいた『モンスターの歴史』(ステファヌス・オードギー著、2010、創元社)の中にすごく心惹かれる文章を見つけたので、それの紹介というか自分用メモというかをしておこうと思って更新します〜。
文章は、ミシェル・フーコーの『エルキュリーヌ・バルバン、通称アレクシナ・B』(1978)の一節だそうで、論文でやるとめっちゃ怒られる孫引きというやつなんですが、メモということで…。
アレクシナ・Bは両性具有者で、まだ世間が異端を人ではなくモンスターとして見ていた時代、世間に好きなように好奇、畏怖、嫌悪、その他さまざまな目を向けられ、研究の対象とされ、最後には自殺したという人物です。
引用はその彼、もしくは彼女の遺書の一部なのですが、発表されている遺書自体も他人の手が加えられている可能性があるらしく、本当に最後まで人に存在を歪められて生きねばならなかった人なのですね。
その引用の内のさらに一部を以下に引きます。
***
さあ、呪われたものよ、務めをはたせ。
お前が加護を求める世界は、おまえのためにつくられたのではない。
おまえは、世界のためにつくられたのではない。
あらゆる苦しみが存在するこの広大な宇宙で、お前が自分の苦しみをしまっておく場所を探しても無駄だ。
おまえの苦しみは調和を乱す。
おまえの苦しみは、自然と人間性のすべての法則をくつがえす。
家庭は、おまえを受け入れない。
お前の人生そのものが、若い処女や内気な青年を赤面させるスキャンダルなのだ。
(中略)
あの黄金の杯から、私は良い香りだけを吸い込んだ。
あなたたちは、杯のなかのありとあらゆる恥辱や不名誉をなめつくし、それでもまだ満足していない。
だから、同情はあなたたち自身のためにとっておけ。
おそらく、同情に値するのは、私よりもあなたたちのほうである。
私はあなたたちの無数の不幸を上から見下ろし、天使の性質を備えている。
なぜなら、あなたたちがいったように、私がいる場所はあなたたちのいる狭い領域ではないからだ。
あなたたちには、地上がある。
私には、無限の空間がある。
肉欲や物欲など、たくさんのしがらみでこの世にがんじがらめになっているあなたたちの精神は、無限の透明な大海のなかにもぐることはない。
その大海は、あなたたちの干からびた浜辺でつかのま道に迷った私の魂が水を飲む場所なのだ。
***
「スキャンダル〜」という部分には若干の時代性を感じますが、それ以上に絶望と孤独、その先の達観に気持ちが揺さぶられる文章だと思います。
「呪われたものよ、務めをはたせ」。
「お前が加護を求める世界は、おまえのためにつくられたのではない」。
泣きたくなるような言葉ですが、そこには決然とした力強さも含まれている気がします。
「同情はあなたたち自身のためにとっておけ」。
安易な理解を拒む、底の見えない孤独。
遺書に記されたこの孤独を「分かる」なんて簡単に言うことはできませんが、それでもどこか共感というか、惹かれてしまう、もしくはこの孤独の表出に癒されすらする、そういう部分があります。
もしかしたらそれが、言葉にすることの力、強さなのかも、と思います。
人の遺書に記された言葉ほど強度のある言葉なんて、きっとよほどのことがないと書けないでしょうが、それでも、それくらい強く人の心に働きかける、あわよくばその救いとなるような言葉を書けるようになりたいものです。
- 作者: ステファヌ・オードギー,池上俊一,遠藤ゆかり
- 出版社/メーカー: 創元社
- 発売日: 2010/07/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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