りぷろぐ

せつな系創作団体「Repro」のBlogです!

弱さを描いた、拙い物語~『心が叫びたがってるんだ』を観て~

連投ですが、淡夏です。

この間観たアニメ映画が思った以上に良かったので、鑑賞して感じたことを今の内に書き留めておきたいと思い更新します。

さて、今回観に行ったのは先週土曜から公開が始まったアニメ、『心が叫びたがってるんだ』です。

それでは以下感想です。

 

 

おしゃべりが大好きで夢見がちな女の子成瀬順。

幼い頃、彼女が何気なく口にした言葉がきっかけで両親は離婚してしまう。

自分が喋ると人を傷つけると思った順は、それから言葉を発せなくなり、自分の殻に閉じこもってしまうようになる。

そんな彼女は、ひょんなことからクラスメイトの坂上拓実、仁藤菜月、田崎大樹と共に高校の「地域ふれあい会」の実行イベントに任命される。

最初は嫌がっていた順だが、拓実との会話の中で、歌でなら自分の伝えたいことを表に出せることに気付き、担任の提案もあって彼女の実体験を基にしたミュージカルをすることになる。

当初はやる気のないクラスメイト達も、熱心な順達の姿に感化されクラス一丸となってミュージカルの成功へ向けて準備を進めるようになる。

その中で、順の中で少しずつ、拓実への想いが募っていくのだが……。

 

 

監督:長井龍雪、脚本:岡田磨里、キャラクターデザイン:田中将賀という『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない』(以下『あの花』)を生みだした面々によって作られた本作。

あの花』が万人向けの泣かせる作品だったので、そっち方面を期待した人は多かったのではないでしょうか。

しかし『ここさけ』は万人向けの作品ではなかったと思います。

そう感じたのは、登場人物が全員繊細過ぎるからです。

 

主人公の順からして、過去のトラウマから言葉を発するとお腹が痛くなってしまう程の神経の細さなのですが、拓実も菜月も、表に出せない、自分ですらしっかりと理解出来ていない面倒くさい感情を抱え込んでいます。

彼女らの抱えるこの“言葉に出来ない、心の叫び”というのは、恐らく、どんな物事も整理して論理立てて考えることの出来る“大人”な人達には決して理解できるものではありません。

それ故に、そういう人達からすれば本作は、自分の感情を優先するクズばかりが出てくる、苛々するアニメに見えるかもしれません。

 

けれど、それこそが『ここさけ』のミソなのだとも思います。

この作品のテーマは前述した“言葉に出来ない、心の叫び”。

だから、登場人物の台詞はどれもこれも、“後、一言二言が足りない”ものばかり。

それは言っている本人達も自覚しており、だからこそもどかしさを感じ、周りにも自分にも苛々し、行き場のない想いを胸の内に燻ぶっている。

そしてそのどうしようもない想いが、論理的な積み重ねを無視し、声にならない叫びとなって物語を動かしていく。

これは、そういう作品だと思います。

 

この“言葉に出来ない、心の叫び”というのがしっかり“台詞”として活きているのが素晴らしい。

脚本家の岡田磨里さんはTVアニメ『true tears』、『花咲くいろは』、『凪のあすから』の脚本、シリーズ構成も担当されているのですが、それらの作品でも登場人物達は「何かわかんねぇけど」と曖昧な言葉を使うことが多々ありました。

曖昧ではあるんですが、そこには確かな想いがあって、しっくりとくる言葉がないからこそ、何かしらの行動に繋げていくことしか出来ない。

そういう計算だけでは再現出来ない物語展開がマリー脚本の魅力であり、それが存分に発揮されたのがこの『ここさけ』なのだと感じました。

 

『ここさけ』のマリー脚本感は主人公のキャラ造形等、随所に見られるのですが、語り出すと長くなるので今日のところはこの辺で。

万人向けの作品ではないと言いましたが、それでも僕はこの作品が大好きです。

多くの作品が人間の、心の強靭さを描く中、こういう弱さ、脆さをしっかりと愛を以て描いてくれる作品というのは、作中の彼女らと同じように弱い人にとってはある種の救いになると思うからです。

全ての人間が強いわけではないのですが、社会で生きる以上、強さこそが必要不可欠なものとして扱われ、弱いものは存在すら許してはくれません。

だからといって弱いものが強くなれるかと言えば、そうでなないでしょう。

もっと言えば、社会の求める強さが、自身の安らぎとは全く結びつかない負担の大きいだけのものとなることすらあります。

そんな人達に必要なのは、強さを押し付けることではなく、弱さを認めることです。

弱さを認めるということは、自分を認めてあげるということでもあり、自分を認めてやっと、人は自分を生きることが出来るようになるのです。

『ここさけ』のような作品は、そのきっかけになるんじゃないかなと。

なので、周囲を気にし、“言葉に出来ない、心の叫び”を抱えている人には是非観て欲しいと、そう思います。