りぷろぐ

せつな系創作団体「Repro」のBlogです!

熱海殺人事件を見てきた話+文フリ大阪宣伝

こんばんは、鳴向です。

この週末に「Patch stage EX 熱海殺人事件http://www.west-patch.com/event/atami/)を見てきたので、今日はその話を。

 

演目としての熱海殺人事件は、2年ほど前に京都の南座で見たことがあったので、とりあえず話の内容は知った状態での観劇でした。

初めて見た時はただただ圧倒されてしまいましたが、今回は展開を知っていたので多少は落ち着いて見ることができたと思います。

ということで、以下はどんな感じだったかと雑感のメモです。

一回見たのみの記憶で書いているので、「」の中含め記憶違い等あるかもですがご容赦ください…あと長いです。物語のラストまで言及しますので、ネタバレNGな方はお気を付けください。

 

 

熱海殺人事件」は、つかこうへいの戯曲で、熱海で工員が女工を絞め殺したという取るに足らない事件を、刑事たちがそれぞれの美学を犯人に押しつけ、何とか「捜査のし甲斐のある」「哲学的な意味のある」事件に育てあげようとする物語(2年前の時のパンフレットから)。

警視庁の敏腕警部・木村伝兵衛と、その下に田舎から赴任してきた刑事・熊田、木村の部下にして愛人の府警の3人が、熱海殺人事件の真相をその容疑者である大山を取り調べる中で鮮やかに改ざんしていきます(ニコ百)。

 

 

今回の舞台でまず目を引いたのは、舞台全体が赤と黒を強調して構成されていたことでした。

幕が上がると、場所は木村伝兵衛警部の取調室で、脚まで真っ赤な机と、同じく真っ赤な三脚の椅子が置かれています。

背景は一面の黒で、浮き上がるような赤。

お話は最後までその取調室の中で進行していくことになります。

 

そこへ歌いながら木村警部が登場してきて、点いた照明が赤。(歌との前後関係はちょっと記憶が曖昧ですが;)

その後も、要所要所で照明の色が変わるときには赤色になることが多くて、なんだかすごく目に焼き付いています。

赤色の照明って普通は人殺しのシーンとかにズギャーン!と入るような効果だと思うのですが、それが結構多用されていたので…

 

で、木村警部に続き熊田刑事、婦警さんと登場人物が出揃っていくのですが、その服も黒と赤になっていました。

木村警部は黒のスーツで、ワインレッドのシャツ。さらに靴下が真っ赤。脚を組んでいるシーンで見える靴下にものすごく目が行ってしまいました。

婦警さんはスチュワーデスっぽい感じのタイトスカートのスーツで、首元に紅いスカーフ。

熊田刑事はちょっと何が赤かったかど忘れしてしまったのですが…ネクタイ?熊田刑事も赤い!と思ったことは覚えているのですが…

 

と、そんな感じで序盤は舞台の「赤と黒」にすごく目を引かれました。これって、台詞にあったスタンダールの「赤と黒」を意識してのことなんでしょうか。

とにかく、赤が強調されていたのが特徴的だったと思います。

 

 

木村警部は開口一番でその場の空気をバチッと支配するのがすごかったですね。

婦警さんは服装は女性っぽさがありつつも髪型はショートカットで、さっぱりしたお姉さんという感じでした。木村警部の愛人という設定はほのめかす程度で、ほとんど出てこなかったと思います。

熊田刑事は最初はイケメンでまともな人っぽく見えて、その後の展開を思うと面白かったです。

 

それから四人目の登場人物、容疑者の大山が、赤いつなぎにサングラス、黒のハットをかぶってやはり派手に歌いながら登場します。

小さな劇場だったので、客席の横から登場して舞台に上がるまでに、客席の間を通ったり何か投げてくれたり(小袋入りのバームクーヘン?)、サービス旺盛でした。笑

歌い終わってグラサンを外すと、小動物みたいなキョトン顔で怯える動作がめちゃくちゃ可愛かったです。

熊田刑事→大山の「つんくじゃないか!」とか、木村警部→熊田刑事「お前の顔ミーアキャットに見える」とか、役者イジりに笑いました。

 

 

取り調べが始まり大山の供述を取りだしたあたりから、熊田刑事がキャラ変し始め、事態はどんどん混迷していきます。

たとえば調書の改ざんを当たり前のように口にする木村警部に反論していたはずの熊田刑事が、むしろ積極的に大山の供述を歪めだしたり、あるいは怯えていた大山が急に開き直ったかと思うと、木村警部にどやされてまたびびったり。

登場人物のボケツッコミや力関係、役割がくるくる変わり、対話の中での関係性によって瞬間瞬間のキャラが作られます。

全ては登場人物たちの想像・妄想・語りと身振り手振りが積み重ねられてできている。

この辺がすごく演劇的で、面白くもあり、一方で最近のキャラクター文芸に慣れきった身からするとついていくのが大変な部分もあり、新鮮でした。

 

 

ややあって、木村警部たちはなかなか思い通りにならない供述にしびれを切らし、大山を一人残して帰ってしまいます。

その、一人取り残された大山が語る、熱海の海のシーン。

「海」と言っているのに、背景に聞こえてくるのは車の音。

ここがすごく印象的でした。

最初は一瞬、劇場の外の音が聞こえているのか?と思ってしまったんですよね。

まあ、もちろんそんなわけはなかったのですが、そのことによって強烈に、自分が今どこにいるのかを想起させられました。

会場のインディペンデントシアターは大阪の難波にありますが、難波は自分にとっては日常生活の範囲内で、しかも難波と言っても劇場があるのは最近開発が進んでいるなんばパークスの辺りとは違って、昔からの電気街の端の方。路地を一本内に入って、周囲にはちょっと怪しいお店もあったりする。そういう、言ってしまえばどこか垢抜けない空気の残る場所です。

もちろん難波は十分都会なんですが、それでもザ・都会という感じの梅田のオフィス街や、ましてや東京とは比べ物にならない。

エンターテイメントの発信地である東京を遠く見上げながら、そこそこの規模の劇場が立ち並ぶ東京とは違う、小劇場で芝居を見ている(大阪にもいい劇場はたくさんあるのですが、やはり発信地は東京が多いので)。

その状況が急に、舞台上の熱海とつながった気がしました。

自分も、舞台上に理想の東京、理想の熱海を幻視している。

劇中では木村警部が「そんなの東京では通用しない」と田舎者の熊田刑事や大山に言ったり、大山が田舎から東京へ出稼ぎにきた工員だったりと、田舎と東京の対比が繰り返し立ち現われるテーマとなっているのですが、ここでまさにそれが再現されたように感じました。

 

大山は途中から、お国訛り(九州弁?)で喋り始めます。

自分は、どうせ大阪でやるのだし、大阪弁でよかったのでは?と途中まで思っていたのですが、だんだん熱海と大阪がリンクしていく感じがすごく面白かったので、この現状で間違いなかったんだなぁと思い直しました。

九州訛りに聞き覚えはないはずなのですが、不思議なことに、終わり近くになると知らない内に、それが自分の馴染みの言葉、つまり本音を言うときの、身体に馴染んだ言葉のように聞こえていました。

 

そしてこの場面では、大山が「海は初めてだ、あれが有名な松だよ」という旨の台詞(正確に思い出せない…)を何度も何度も繰り返して言います。

背景はブラインドの隙間から入り込む夜の青い光だけになって、照明がごくごく絞られていって、まるで映画館のようでした。

暗くなることで周囲の他のお客さんたちが見えなくなり、この空間には幽体離脱した自分と大山しかいないような感じ。

痛々しく繰り返される台詞は、大山と自分を鏡写しにして自問自答しているような気分にさせられます。

舞台がぐぐっと迫ってくるような奇妙な感じがして、すごく引き込まれました。

 

 

その後気を取り直した婦警さんと熊田刑事が戻ってきて、再現される殺人のシーン。

ここでまた印象的だったのが、「海」なのに赤い照明。

赤い髪、赤い服、赤い爪のアイコ。

真っ赤なつなぎの大山。

その二人が、光によって赤く縁取られる。

これもまた、視覚的に印象に残る場面でした。

 

で、全ての真実が明らかになった後、再び木村警部が登場するのですが、そのときの照明が紫色で、中の人に似合いすぎててすごかったです。ラスボス感…

そして木村警部は菊?の花束で大山をシバきまくります。

その迫力もさることながら、叩きつけられるたびに花弁が飛び散り、最後列まで花の匂いがしてきて、なんだか物悲しい気持ちになりました。

こういうのは舞台じゃないとなかなかないですね。

 

そして木村警部は大山に餞別として白のコンバースを渡します。

これまで赤と黒が強調されてきた舞台の中で白はひどく異色で、「それを履いて十三階段を上れ」と渡された靴なのですが、むしろ未来への希望や、再生可能性の暗示のように見えました。

 

さらにもう一つ、木村警部は大山に、「刑務所で精神を保つため」と言ってあやとりを教えます。

あやとり紐の色は赤。

その紐で、何度かどやされながらも木村警部からうまく取ることができた大山に、木村警部は「もう少し辛抱していれば、殺さずに済んだかもしれない」と告げました。

そして愕然とする大山。

なぜこの場面であやとりなのか。そもそも、刑務所でやるって言っているのに木村警部はなぜ二人で取るタイプのあやとりを教えたのか。

もしかしたらこのあやとり紐は、大山がアイコの首を絞めた腰紐に見立てられていたのかも、と思います。

腰紐は遠目から見たらピンク…大きく捉えれば赤でした。それがあやとり紐と重なって思い出されます。

そう思うと余計に、もう少し辛抱していれば、の言葉が重く響きました。

 

最後は、静岡に嫁ぐという婦警さんが出て行き、大山もいなくなり、舞台上には木村警部と熊田刑事の二人だけになります。

田舎に帰るという熊田刑事に、煙草をつけろと要求する木村警部。一度目は文句をつけてすぐに消してしまい、二度目は「お前が点けると味が変わる」といいながらゆっくりと煙を吸い込みます。

そして熊田刑事も退出し、都会派だった木村警部は一人になって、舞台は幕を下ろす。

 

 

それが、「東京で通用するように」「どこに出しても恥ずかしくないように」と、事件と犯人の大山を鍛えて行きついた先の結末。

幸せはどこにあるのか。

東京を志向すること、それによってさまざまのものを歪めること、そこにやんわりと疑問を投げかける終わり方だったと思います。

ずっと賑やかだっただけに、最後の静けさがひどく寂しく感じました。

 

東京と、田舎=地方の対比。そして地方の肯定。

それを、東京のD-BOYSに対して関西でも、ということで作られた(けれどもエンターテイメントである限り、その中心地である東京を志向することからは逃れられない)Patchが演じたということがすごく面白かったし、それを大阪の、たとえば森ノ宮みたいな大きなホールではなくて舞台に手が届きそうな難波の小劇場で見ているということも面白かったし、それを(個人的な話ですが)昔東京に憧れたけれど結局大阪に住んだままの自分が見ているというのも面白いなぁと思いました。

二重、三重のテーマ性の再現というか。

「いま」「この場所で」「この人たちの」この芝居を見た、という演劇体験全体がすごく面白かったです。

 

あとは個人的にツボだったのが、木村警部に突き飛ばされた大山が蹲って咽るシーンで、大山が華奢っぽかったのでちょっとドキドキしました本当にありがとうございます。

大山は猟奇的な感じよりも、カッコつけの裏にある純朴さと、その純朴さゆえの傲慢さが強く出ていて、若者らしい、いいキャラでした。

婦警さんは、タイトスカートに見える女性らしさ、色っぽさと、自立した女性の凛々しさのバランスが素敵でした。

熊田刑事はかっこよさと気持ち悪さと泥臭さがなぜか絶妙に同居していて面白かったです。若さからくる勢いがあるタイプの熊田になっていて、新鮮でした。

木村警部は場の支配力がすごかったですね。「私を立てろ!」って言っているときとかの存在感。こちらも若かったので、年がいって捻くれたんじゃなくそもそも変人だったんだなという感じが強くてなんだか愛おしさを感じました。

 

そんな登場人物の織り成す「場」。

やっぱり舞台のこの、個々は独立しているイメージをトータルコーディネートして一つの、その瞬間にしか存在しない「場」を作り上げるという感覚はめちゃくちゃインスピレーションを与えてくれますね。

物理的な物だけではなくて、会話の積み重ねや息遣い、音、光、匂い、そして想像と連想によるイメージで構成される場と、そこに居合わせるという体験。

それは演劇にしかない魅力で、久しぶりに劇場に行ってよかったなと思いました。

 

***

 

さて、そんな感じで色々と勉強しつつ、自分の所属するサークルReproでは9/20(日)の第三回文学フリマ大阪に出す用の本作りを進めています。

現在は校正・編集作業中。

文フリ大阪当日のブース位置はB-46(イベントホール)、カテゴリは小説|エンタメ・大衆小説です。

どうぞよろしくお願いします!

Repro:http://repro09.net/

文学フリマ大阪:http://bunfree.net/?osaka_bun03